日本国内には数多くの中小企業が存在し、そのうち約85%は小規模事業者であると言われています。
大企業に比べて市場規模や資本力が限定されている一方、ニッチな分野で高い技術力を持ったり、地域に根ざした独自のサービスを提供したりと、多様な魅力を発揮しているのが中小企業の特徴です。
しかし近年は、人手不足・生産性向上・コスト削減など、経営環境の変化への対応が急務となっています。
こうした課題に対して有力な解決策の一つとされているのが、AI(人工知能)を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)です。
ところが実情として、大企業と中小企業の間ではAI導入の進度に大きな差があることが、さまざまな調査で明らかになっています。
本コラムでは、現在公開されているデータをもとに、中小企業が実際どのようにAIを活用しているのか、また導入時にどんな課題があるのかを考えてみました。
全体的なAI導入状況
1. AIはまだ“ITツールの一部”という位置づけ
中小企業のIT化率は着実に上昇していると言われていますが、その中身を詳しく見ると、ファイル共有・Web会議システム・販売管理ソフトなど、比較的導入ハードルの低いITツールが中心です。
あるレポートによれば、中小企業全体の約65%がこれら一般的なITツールを活用しているものの、AIをメインとしたツールを導入している企業は依然として低い水準に留まっています。
これは「AIを使いこなすために必要な専門知識や人材が不足している」「自社内に分析すべき大量のデータがまだそろっていない」など、さまざまな背景が考えられます。
大企業と異なりリソースに限りがあるため、どうしても投資優先度が高い業務改善にまず着手する傾向があり、AI専用のソリューションまで手が回らないケースが多いようです。
2. RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の普及度
中小企業において比較的導入例が多いAI関連技術として挙げられるのが、RPAです。
RPAとは、これまで人間がPC上で行っていた定型業務(入力・転記・リスト作成など)をソフトウェアのロボットが代行してくれる仕組みのことを指します。
年商50億円未満の企業では2024年時点でRPA導入率が約15%に達しており、さらに導入検討中・準備中の企業が23%ほど存在するとのことです。
これらの数値は大企業の導入率(約44%)に比べればまだ差があるものの、中小企業でもRPAを入り口としてAI活用を始める企業が増加していることがうかがえます。
実際、RPAはクラウド型や低コード開発型のツールも多く、IT専門人材がいなくても比較的短期間・低コストで検証しやすいのが特徴です。
既存のExcel業務や受注管理システムと連携しやすい製品も多いため、「まずは定型的な事務作業の自動化から始めてみる」というスモールスタートには最適な手法といえるでしょう。
3. 先端AI・生成AIの利用実態
一方で、画像認識や自然言語処理、そして2023年に大きな話題となったチャット形式の生成AIなど、より先端的なAI技術については、中小企業での導入率が低い傾向があります。
あるレポートの数字によると、中堅・中小企業の管理職以上が週に数回程度、生成AIを業務で利用している割合は約19.8%とされています。
それに対し、大企業では41.1%と倍以上の利用率を示しており、ここでも明確な差が現れています。
この背景としては、先端AIを活用するためには、より高度なデータ処理・システム連携・セキュリティ対策が求められることが挙げられます。
また、「AIがどのように利益に結びつくのか」という投資対効果への疑念や、AI活用に必要なスキルを持つ人材の確保が難しいといった課題が、中小企業にとって特に大きいと言えるでしょう。
中小企業で活用される主なAI技術
1. RPA – 定型業務自動化の“入り口技術”
先ほども触れたように、RPAは中小企業がAIを導入する“入り口”として注目を集めています。
具体的には、以下のような場面で活用事例が増えています。
- 受注データや顧客情報を基幹システムに入力する
- 繰り返し行われる帳票処理や経費精算のチェック
- 取引先企業のホームページから決められたデータを定期的に収集し、Excelに自動転記
これらの業務をRPAロボットに任せることで、ヒューマンエラーの削減や作業時間の短縮が期待できます。
ただし、「RPAのシナリオ作成と保守にある程度のITリテラシーが必要」「既存の業務プロセスそのものを見直さないと、形だけ自動化しても効果が限定的」などの注意点もあります。
2. チャットボット – 顧客・社内対応の効率化
チャットボットは、テキストベースで自動応答を行うシステムです。
とくに顧客対応の分野で活躍し始めており、問い合わせ対応窓口をチャットボットで24時間体制にすることで、スタッフの負荷を軽減したり、顧客の待ち時間を短縮したりすることが可能になります。
サービス業やECサイトを運営する企業が導入するケースが目立ちますが、社内ヘルプデスクをチャットボット化することで、パソコンの操作マニュアルや勤怠システムの利用方法など、日常的な問い合わせを自動応答する取り組みも進んでいます。
こうしたチャットボットは、大規模な企業のみならず、中小企業でも比較的導入ハードルが低い部類に入るため、すでに数多くの製品やサービスが提供されています。
3. AI-OCRやデータ分析ツール
AI-OCR(Optical Character Recognition)は、紙の書類やPDFなどに記載された文字情報を自動的に読み取り、デジタルデータとして活用できる技術です。
人の手で入力する手間を省けるうえ、認識精度の高いAIベースのOCRなら手書き文字にも対応できるものが増えています。
さらに需要予測や在庫管理にAIを活用するデータ分析ツールも、中小企業の導入が徐々に増え始めています。
たとえば、販売実績や季節要因などのデータを機械学習モデルに読み込ませ、次期の需要をある程度予測した上で仕入れ量を調整するといった活用法が典型例です。
こうした「特定の業務プロセスをピンポイントで改善するAIツール」は、中小企業の導入メリットが比較的わかりやすいため、今後も一層普及していくと考えられます。
中小企業ならではの導入課題と今後の展開
1. AI導入が進まない主な要因
中小企業がAI導入を躊躇する要因として、以下のような項目が挙げられています。
- 知識・情報不足
AIが具体的にどのような業務で力を発揮し、どれほどの費用対効果が期待できるのか、明確なイメージを持てないケースが多い。結果として導入を後回しにしてしまう。 - 資金面の制約
初期投資や保守費用を考えると、大企業ほど潤沢な予算を確保しにくい。また補助金や助成制度の情報を取得・活用できていない場合も多い。 - 専門人材の不足
AIシステムを導入・運用するにあたって、データサイエンスやプログラミングの知識を持つ人材が必要。しかし中小企業は人材確保や育成が大企業より困難である。 - 社内体制と業務プロセスの見直し
単にAIツールを導入するだけではなく、業務フロー自体を最適化する必要がある。既存のやり方に固執してしまうと、せっかくのAIが効果を発揮しにくい。
2. 今後の展望 – スモールスタートと外部連携の重要性
こうした課題を踏まえ、中小企業がAIを活用していくためには、「スモールスタート」が有効なアプローチだとされています。
具体的には、まずはRPAやチャットボットなど比較的導入コストが低く、効果がわかりやすい領域から着手し、導入成果を見ながら段階的に拡大していく方法です。
一度に大規模なシステムを導入しようとすると、コストや人的リソースの面で挫折してしまうリスクが高まるため、部分的・試験的に導入することで失敗を最小限に抑えられます。
また政府や自治体、金融機関、商工会議所などが提供する支援制度の活用も不可欠です。
IT導入補助金のように、AIシステムにも適用できる助成プログラムは数多く用意されています。
専門家のコンサルティングや導入サポートを受けられるケースもあるため、情報収集を積極的に行うことで予算や人材面のハードルを下げることができます。
3. 生成AIの普及と中小企業への波及
いくつかのレポートでも取り上げられていますが、チャット型の生成AIは大企業での実用事例が先行している状況です。
しかしクラウドサービスとして利用できるツールも増え、導入コストが低減してきているため、今後数年のうちに中小企業にも波及する可能性が高いと考えられます。
たとえば社内文書の下書き作成や、カスタマーサポート向けの問い合わせ回答支援など、すでに身近な業務で試行するケースが増え始めています。
ただし生成AIを含む先端技術の活用には、情報漏えいリスクや著作権・データの扱いに関する注意も必要です。
中小企業が導入を検討する際には、セキュリティポリシーを整備し、必要に応じて外部のITコンサルタントや法律専門家に相談しながら安全性を確保していくプロセスが求められます。
まとめ
本コラムでは、中小企業におけるAI活用の現状と今後の展望をご紹介しました。
まとめると、中小企業がAI導入を進めるにあたっては以下のポイントが重要となります。
- まずは“入り口”として導入しやすいRPAやチャットボットなどから着手し、部分的な自動化を実現する。
- 業務全体の見直しと合わせてAIを組み込み、点から面へと拡大していくアプローチを取る。
- 政府補助や専門家の支援を活用し、初期投資や人材面のハードルを下げる。
- 生成AIを含む先端技術に関しては、大企業の先行事例やクラウドサービスの利用可能性を積極的にリサーチし、安全性と効果を検討する。
日本の中小企業は、地域経済や産業構造を支える重要なプレーヤーですが、労働人口の減少や競合の激化といった課題はますます深刻化すると見られています。
こうした環境下で、AIをはじめとするデジタル技術を上手に取り入れることで、限られた人的リソースを最大限に活かし、競争力を高めることが可能になるでしょう。
今後も技術進歩のスピードは速いことが予想されますが、それに合わせて「スモールスタートで試しながら確実に成果を出していく」姿勢が中小企業には求められているといえます。
当社では、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する導入コンサルティングや情報提供サービスなども行っております。
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