竹中工務店が取り組む構造設計AIシステム

建設業界では近年、労働人口の減少や技能者の高齢化に伴う人手不足、長時間労働の是正など、数多くの課題が顕在化しています。また、建物の耐震性・安全性・快適性といった品質要求が高まる中、設計や施工に対してさらに高度な知識と迅速な対応が求められる時代になりました。こうした背景の中、ITやAI(人工知能)を活用した業務効率化・生産性向上の動きが、大手ゼネコンを中心に急速に進みつつあります。

その中でも、竹中工務店が開発・導入を進めている「構造設計AIシステム」は、長年にわたって蓄積してきた同社独自の設計ノウハウをAIに学習させることで、建物の基本プランや構造断面、部材の最適化などをスピーディかつ的確に行えるようにする取り組みです。以下では、この構造設計AIシステムの概要や導入効果、そこから見えてくる経営者にとっての導入検討のポイントについて、なるべく詳しく解説していきます。


目次

1. 竹中工務店の構造設計AIシステムとは?

1-1. システム開発の背景

竹中工務店は、日本を代表する大手ゼネコンの一社として、超高層ビルや大規模商業施設など、数多くの建物を手掛けてきました。長い歴史と膨大な実績がある一方で、設計分野でもベテランの引退や若手不足の問題は深刻で、社内に蓄積されてきた経験知をいかに継承し、生産性を高めていくかが課題となっていました。

同社が着目したのが、近年急速に進歩しているAI技術です。過去に蓄積した膨大な建物データや設計履歴などをAIに学習させることで、従来はベテランの経験や勘に頼っていた部分をシステム化し、組織全体の生産性向上を図るという狙いがあります。

1-2. 基本的な仕組み

同社では、構造設計における代表的な業務を三つのステップに分け、各ステップでAIが支援する仕組みを構築しています。具体的には以下の機能が挙げられます。

1. 事例検索AI

過去の建物実績の中から、計画条件(規模、構造種別、階数など)が似通ったプロジェクトを瞬時に検索し、主要な部材寸法や施工手法などをリストアップして提示。これにより、経験豊富な技術者が自ら膨大な資料を手作業で探す必要がなくなり、比較・検討にかかる時間を大幅に短縮できます。

2. 断面推定AI

建物の形状・規模や柱スパン(柱と柱の間隔)などの基本条件を入力すると、AIが過去のデータを基に柱や梁などの断面寸法をおおよそ推定。これまではベテラン設計者が長年の知見や経験に基づいて「これくらいのサイズであれば充分耐えられるだろう」と初期検討していた部分を、客観的なデータ解析でサポートします。

3. 部材設計AI

フレームモデル(建物の骨組み)を何度もシミュレーションして、構造解析結果を基に柱や梁のサイズを細かく調整し、最適解を導き出す機能です。安全性はもちろんのこと、コストや施工性、材料使用量などを総合的に判断しながら、必要最小限の寸法を確保することで、過剰設計を防ぎ、工期や予算の削減につなげることが可能になります。


2. AI導入による具体的な効果

2-1. 設計時間の大幅短縮

もっとも大きな効果として挙げられるのが、設計業務の時間短縮です。特に、初期段階の計画や複数案の比較検討に要していた時間が大幅に圧縮されました。これまではベテランの経験や手計算、あるいは若手が過去の資料を一件一件手作業で探す、といった非効率なプロセスを踏んでいた部分を、AIが瞬時に提案してくれます。

提案スピードが向上することで、施主やクライアントに対してタイムリーに複数の設計プランを提示し、早い段階で意思決定をサポートできるようになりました。結果としてプロジェクト全体のリードタイムが短縮し、建築計画の着工から完成までの期間短縮にも貢献します。

2-2. コスト削減と品質向上の両立

AIが複数の設計案を比較する段階で、無駄な部材や過剰な補強をできるだけ減らしつつ、安全性と品質を担保するベストな設計を見つけることができます。これによって、材料費や建設コストを低減しながら、むしろ構造上の安全性はさらに向上するといった、一見相反する二つの課題を同時に解決できるのです。

例えば、少しでも断面寸法を小さくすれば材料費は節約できますが、安全マージンが足りなかったり施工時のリスクが高まったりする懸念がありました。AIのシミュレーション機能を活用すると、そうしたケースを数多く評価することで、最適な落としどころを合理的に見つけ出すことが可能です。

2-3. 人材育成・ナレッジ継承への効果

ベテラン技術者が長年かけて培ってきた経験知を、AIの学習データとして取り込むことで、若手や中堅でも一定レベルの設計判断を短期間で下せるようになりました。これまで「職人気質」の世界だった構造設計において、ナレッジの属人化が解消され、組織全体のスキル底上げにつながるメリットがあります。

もちろん、すべてをAI任せにするのではなく、最終的な判断はエンジニアが責任をもってチェックしますが、「なぜAIがその結果を提示したのか」を把握しながら業務を進めることで、設計者自身も知見を深めていける仕組みが整いつつあります。


3. 建設業界におけるAI活用の動向

AI技術の導入は、竹中工務店に限らず、建設業界全体で広がりつつあります。大手ゼネコン各社は、施工管理や資材の在庫管理にAIを取り入れ、ドローンと画像解析を組み合わせることで現場の巡回点検を自動化するといった取り組みを進めています。これらの事例を見ると、建設プロセスのあらゆるフェーズにおいてAI導入の余地があり、設計だけにとどまらない包括的なデジタルトランスフォーメーション(DX)が進行していることがわかります。

一方で、中小・零細企業の間では「AI=大規模投資が必要」「大手企業しか導入できない」という先入観がまだ根強いのも事実です。しかし実際には、クラウドサービスや専門ベンダーの支援を活用すれば、部分的な導入やスモールスタートでの検証が可能になってきました。むしろ人手不足や熟練技術者の減少といった問題は、より規模の小さい企業で顕在化しやすいともいえます。そのため、AIを上手く活用し、限られたマンパワーを効率的に使うことで、経営を安定させる取り組みは今後ますます重要になるでしょう。


4. 経営者が押さえるべきAI導入のポイント

竹中工務店の事例は、AI導入が“攻め”と“守り”の両面で大きな効果をもたらす好例といえます。では、この事例から経営者としてどのような示唆を得られるでしょうか。以下、いくつかの視点を挙げてみます。

1. 自社のデータ資産を見直す

まずは自社に蓄積されている過去の図面や施工履歴、発注データなどを改めて棚卸しし、それらをAI学習に活かせる形で整備することが重要です。竹中工務店も数多くの建築実績や設計データを整え、それらを機械学習させることで大きな成果を生み出しました。

2. 導入目的と効果測定指標を明確化

AIを導入する際には、「なぜ導入するのか」「どの業務をどれだけ効率化・改善したいのか」といった目的を明確にし、効果測定のためのKPI(重要業績評価指標)を設定することが大切です。闇雲に投資をしてしまうとコストだけが嵩んでしまい、社内での理解も得られなくなる可能性があります。

3. スモールスタートと社内連携

いきなり大規模なシステム導入を行うのではなく、まずは特定のプロジェクトや業務プロセスでパイロット運用し、効果を検証するやり方も一案です。その際には、現場で実務を担う担当者と密接に連携し、AIの提案結果や使い勝手について意見を取り入れながら改善を進めることが成功の鍵となります。

4. 人材育成と運用体制の整備

AIは導入しただけでは効果を最大化できません。実際の設計や施工を行う人材がAIを使いこなし、AIが提示する結果の妥当性を検証できる素地が必要です。竹中工務店のように、経験豊富なベテランの知見をシステムに組み込むとともに、若手がスキルアップできる仕組みを構築することが大切です。


5. 今後の展望と可能性

竹中工務店の構造設計AIシステムは、今後さらに高度化・拡張していく可能性があります。現状は主に構造設計にフォーカスしていますが、意匠設計や設備設計、さらには建設後のビル管理・メンテナンスなど、建物のライフサイクル全体にわたってAIが活躍できる領域は多彩です。

建設業界にとどまらず、あらゆる企業がデジタル技術を活用して生産性の向上や新たな価値の創造に取り組む時代において、AI導入は非常に効果的な手段の一つと言えます。また、AIとBIM(Building Information Modeling)など他のデジタル技術が連携することで、計画から運用までのプロセスを一元管理し、常に最新の情報を反映させながら設計・施工・維持管理を進めていく取り組みも現実味を帯びてきました。

企業経営においては、「今すぐに導入するかどうか」はともかく、業界や競合他社がどのような形でAI・DXを実装し始めているのか、その動きを常にウォッチし、自社の強みや方針に合った形で取り入れる準備を進めることが重要でしょう。特に中小企業の場合、先進事例を参考にして自社に適合する部分から少しずつ導入するというアプローチが有効です。


6. まとめ

竹中工務店の「構造設計AIシステム」は、建設業界におけるAI活用の先進事例の一つです。過去からのナレッジを最大限に活かし、設計時間の大幅短縮やコスト削減、品質向上、さらには人材育成とナレッジ継承まで、幅広いメリットを享受しています。

大手企業のみならず、人手不足や熟練技術者の減少に悩む中小・零細企業にとっても、AIは今後の業務改革と持続的成長を支える重要なテクノロジーとなるはずです。AIの導入プロセスには、データ整備や社内連携、人材育成といった多くの課題も伴いますが、しっかりと目的を定めたうえで段階的に導入していけば、競争力の強化につながる大きな可能性を秘めています。

当社では、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入に関するご相談を随時受け付けております。 「自社の業務にAIを導入したいが、どこから手を付ければいいのかわからない」「竹中工務店のように成功している企業の具体的な事例をもっと聞きたい」など、ご興味をお持ちの方はお気軽にお問い合わせください。

補足情報

  • 竹中工務店は、構造設計分野に特化したAIだけでなく、施工管理やBIM連携など幅広い分野でデジタル技術を活用しています。
  • 業務プロセス全般のDX化が進むほど、部門間のデータ連携もスムーズになり、さらに総合的な効果が得られます。
  • AI技術は日進月歩で進化を続けており、導入後も継続的なアップデートとデータのフィードバックが必要です。

上記のように、AI導入は単なる「作業の機械化」ではなく、企業に蓄積されてきた知見を活かしながら、より高い次元の品質と効率を追求していくための手段として、大きな注目を集めています。竹中工務店のケースは、そうした新時代の建設業の在り方を象徴的に示す事例と言えるでしょう。

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